ここでチョコレートの原料カカオについて解説しておく。カカオの原産地は諸説あるが、南米コロンビアの熱帯雨林に自生していたものを、栽培化して広めたという説が強い。その隣国エクアドルの遺跡では、陶器の付着物から紀元前五〇〇〇年以上前のカカオのDNAが検出。カカオの実を利用して飲まれていたと分析される。
メキシコでは現在の南西部タバスコ州で古代オルメカ文明が発達した紀元前一〇〇〇年頃、カカオが栽培されて飲用されていたと推測される。現在の首都メキシコ市周辺で古代アステカ文明が最も栄えた一五世紀には、低地のベラクルス州やタバスコ州で栽培されたカカオの実が、アステカ帝国の首都まで運ばれていたという記録が残る。古代アステカの王族たちは、カカオとトウガラシを混ぜた飲料水を好んでいた。ちなみに、カカオが欧州に渡って固形チョコレートがスイスで開発されたのは一八七〇年代である。
さて、モーレ・ポブラーノの料理は、現在の民芸品美術館であるサンタ・ロサ修道院の厨房で生み出された。かつて古代アステカの王族たちが、カカオとトウガラシを混ぜた飲料水を好んでいた逸話をもとに、修道女たちがカカオに多種類の香辛料を混ぜて思考しながらソースを煮込み、七面鳥や鶏の肉にかけて食べた。サンタ・ロサ修道院跡はプエブラの歴史地区にあり、美術館見学の際にモーレ・ポブラーノ発祥の厨房が見学できる。
プエブラのレストランでは、ほとんどの店で原料の素材から長時間かけてモーレのソースを作っている。私は二〇〇一年に初めてプエブラを訪れて以来、二〇二〇年三月まで計七回くらいこの街に来ているが、店ごとにモーレの味が微妙に違う。辛さや風味、ソースの濃厚度など、その店オリジナルの味が楽しめる。
モーレ・ポブラーノをトルティージャとともに食べる
さかぐちとおる著『中南米グルメ紀行』(東京堂出版)P.24〜26より抜粋
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