日本への伝来は、一五四二年にポルトガル人が持ち込んだとされる。漢字で唐辛子と表記するように、現在の中国である唐から伝わったと思われがちだが、江戸時代以前の日本では、「唐」は舶来の物を意味していた。トウモロコシも漢字で書くと唐蜀黍となる。
トウガラシはナス科の植物で、中南米には計四種群ある。その中でメキシコで紀元前七〇〇〇年頃から栽培されていたとされるアンヌーム種が、コロンブス到達以降に世界各地へと伝わって現在に至る。
欧州にトウガラシが持ち込まれる以前は、香辛料はコショウを使っていた。だが、コショウは熱帯の低地でしか栽培できないので、高価な品であった。一方で、トウガラシは温帯の地でも栽培できるので、世界各地に広がっていく。例えば朝鮮半島では、トウガラシが伝わる以前、キムチはニンニクやショウガを利用した漬け物に過ぎなかった。現在トウガラシの生産量が最も多いインドでは、カレーはコショウやショウガを使った今ほど辛くないものだったと推測される。
トウガラシは胃腸を活性化させ、食欲を増進させる効果がある。辛み成分であるカプサイシンは胃腸だけでなく、脳からエンドルフィンを分泌させる。これにより疲労を和らげ、陶酔感や快感を得ることができるのだ。
コショウも含めた香辛料は、腐敗の原因となる微生物を殺菌する効果がある。トウガラシに含まれるカプサイシンは、カビに対しての効力があり、抗酸化性が強い。つまり、トウガラシを使うことによって、貯蔵や保存の効く食べ物を作ることができる。
メキシコでは大小五〇種類以上のトウガラシが、各料理で使われている。すべてアンヌーム種で、生のものと乾燥したものが売られている。チレ・アルボルと呼ばれる日本のタカノツメに近いようなものから、大きく肉厚でピーマンのようなチレ・ポブラーノまで多様。メキシコ人は料理によってトウガラシを使い分けており、長年に渡って伝えられた料理方法により、豊穣なる食文化を培ってきた。
露天市では多種類のトウガラシが売られている
さかぐちとおる著『中南米グルメ紀行』(東京堂出版)P.42〜44より抜粋
【メキシコの最新記事】