この一帯はなぜ雨が降らないのか。それは、西側の太平洋上には年間を通じて強い高気圧が張り出しており,東側には6000メートル級のアンデス山脈が連なっていて雨雲が遮られるからだそうだ。南北の雨雲の動きはほとんどない。降雨がまったく記録されていない地点もあるという。標高が高くなるとわずかながら降雨があり,薄らと草が生える光景に変わる。さらに標高4000メートルを超えると湖や沼が姿をあらわす。
この湖沼地帯を巡るツアーに参加すると,砂漠とはまた別の顔を見ることができると聞いた。前日の同じようなツアー用ミニバスに乗って,早朝にサン・ペドロ・デ・アタカマの宿を出発。東方面に向かって山道を上っていく。草が生えているところには数匹のウサギがいた。ビスカッチャと呼ばれる体長50センチほどのウサギは,茶色い毛並みがふさふさしていてかわいらしい。
標高4000メートルあたりの水辺ではラクダ科のビクーニャが観察できた。パタゴニアに生息するグアナコにも似ているが,体は細くてしなやかだ。我々を警戒しつつも,興味ありげに5頭ほどのビクーニャが顔を向けていた。
ミニバスは未舗装道を走り続けて標高4350メートル地点にあるミスカンティ湖に到着。アンデス山脈から雪解け水が流れ込む湖で,青い湖面と周囲の草地,そして背景の峰々が連なる光景は深く心に焼きついた。湖面にはクイナ科のオオバンが木の枝を積み上げて巣を作っている。
さらに30分ほど進んだところにあるトゥヤイト湖は湖面が凍結している。アンデスの山並みが,湖に鏡のように映し出される様子は神秘的だ。
標高4500メートル近くまで行くツアーは,高地の息苦しさと寒さに耐えながらの行程だったが,砂漠とは別の顔をもったアンデス山脈の自然美を体感することができる旅となった。
